「蟹よ」

メカニカルな動作がいい。二本の鋏がいい。その毒性の無い泡がいい。

あっけなく死ぬからいい。干からびてるからいい。
道路でつぶされてるからいい。カラスに食べられてるからいい。

なんか腹にミシン目が入ってるのがいい。
技術に比例して食べられる部分が増えるからいい。
共産主義を想わせる赤々とした甲羅を見せつけながら
全ての捕食者に沈黙を強いる、身を粉にしたそのファッショがいい。

いくらでも潮を招いていい。海は君の領分でいい。君の肉体は僕の領分だから。
人間を食べていい。僕が死んだら食うといい。僕の子孫も君を食うだろうから。

僕が君を抱きしめようとしても君は鋏を振りかざさずにはいられないだろう。
君が茹で釜で助けを求めても僕は蓋を閉めずにはいられないだろう。
だがこの血塗られた関係は共存としか呼べないのだろう。

蟹よ、僕を笑え。
君への愛を食すということでしか表現できない不器用さを。
生態よりも内部構造に詳しい哀しさを。
7月生まれを蟹座と呼ぶことを。
そして僕が牡牛座であることを。